コロナによる経営悪化、黒字3店舗の相次ぐ閉店により、大幅売上減となった食肉小売会社の場合です。
当社は地方スーパーのテナント店として5店舗で食肉小売業を行っていましたが、地方スーパーが相次いで撤退したのに伴って、黒字であった3店舗を閉めることになりました。またコロナの影響で、残った店舗の売上も減少し、大幅な赤字を計上していました。
特に残った店舗の内、大手スーパーにある主力店舗の赤字が大きく、経営改善が必要となっていました。
売上を追うあまり大幅な赤字を出していた主力店舗の事例を紹介します。
1.経営改善の課題
この会社の経営改善を図るために、現状の把握を行い経営課題を抽出しました。
1)小型スーパーの撤退による店舗の撤退
地方スーパーの現状そのものですが、地方小型スーパーの老朽化と大型スーパーの進出により、当店が入っているスーパーそのものが撤退することで、当店も撤退せざるを得ませんでした。これは、コロナの影響による売り上げ減などと共に外部要因のため、防ぐことは難しい問題です。
2)各店舗別損益の把握と損益改善
当社では、経営改善に取り組む中で税理士先生の指導もあり、各店舗別損益を把握していました。そこで明らかになったのが、大手スーパーテナントでの大赤字です。この店舗の粗利では、本社経費負担だけでなく、店舗固定費もまかなえない状態でした。
3)長男への事業承継
多額の借入金と債務超過により、当社で働いている長男への事業承継環境が整わないため、長男への事業承継を検討するためにも、債務超過解消への返済原資の確保が課題となっています。
→ 借入金の返済 年1000万円の返済原資の確保が課題
2.大手スーパー内 主力店舗の現状
経営改善のために優先して取り組まなければならない課題は、主力店舗の損益改善でしたので、まずはその現状について確認しました。
■ 大手スーパー内店舗の売上は、コロナの影響で大きく減少していました。
原因は大手スーパーの集客力低下、コロナ禍の影響からの回復遅れですが、コロナ前の売上まで回復するのは簡単ではありません。
■ 店舗別損益管理のデータから、当該店舗の粗利は多店舗の35%と比較して、25%と低下していました。
店舗家賃105万円を含めた店舗固定費350万円をまかなうために、この店舗の採算ベースである月売上1000万円を上げる必要がありました。社長は粗利額を達成するためには売上を上げるしかないと考えて、大幅な安売りを実施していました。
損益悪化の原因は、店舗の売上月1000万円を達成するために安売りを行っていたことでした。
■ 大手スーパーの方針でニクの日を設定して、チラシで宣伝することで集客
具体的には原価100円の豚肉を100円の特売で販売していたため、粗利率が低下していたのです。売上1000万円を達成するために他にも安売りを実施していたため、粗利率はさらに悪化していました。
3.主力店損益改善のための対応策
売上1000万円を達成するために、安売りを続けてきたことで、粗利率が25%にまで落ち込んでいたことが原因であったため、次のような対応策を講じました。
■ 固定費削減のために、家賃交渉
当初の契約では売上1500万円の7%として105万円固定だった家賃を、時限措置として売上1000万円を下回る場合には売上の8%、7%と下げてもらう交渉を行いました。(900万円の売上に対して63万円)
■ 大手スーパーの店長が変わった機会に、肉の日の激安売りを止めました。
肉の日の特売はスーパー店長のこだわりでしたが、店長が変わったのを機会に、肉の日は続けるものの、激安売りを止めることにしました。
■ 豚肉の年間契約を解消して、時価にて仕入れることにしました。
豚肉が高騰しているときには年間契約は有効で、また本社へのキャッシュバックもありましたが、現在は時価で仕入れた方が仕入額が安くなっていたため、年間契約から時価仕入に変更することで、粗利が増えることになりました。
■ 豚肉から牛肉へのシフト
一般消費者は豚肉のが安いため、売上高は豚肉の方が高かったのですが、利益率の取れる牛肉を積極的に販売することにしました。
粗利改善の効果
これらの対応策により、コロナからの売上回復もあり、売上900万円、粗利率38%を達成することができました。
また、経営改善計画では5年後に新店舗を開設する予定でしたが、地方スーパーで撤退した肉屋の代わりに、新店投資のほとんどない条件で新規出店の機会があり、店長も当社社員が兼務することで人件費も抑えることができ、賃料の交渉も有利に進んだことから、新規出店を実現することができました。新店舗立上げで安定した売上を確保するために非常に苦労していいますが、他店舗と同様の売上と粗利が確保できれば、黒字化への道が早まることになります。
まとめ
売上目標1000万円にこだわり、安売りを続けてきたのを止めて、粗利を重視して仕入れの工夫と激安販売の中止などにより、店舗損益を黒字化することができました。
売上を追うのを止めて、いかに粗利を増やすかに注力することで、経営改善ができることが多いのですが、粗利を増やすには粗利額の分析と、いろいろな工夫が必要ですのでなかなか取り掛かれない場合があります。しっかりと粗利額を把握して、粗利を増やすためには何をすればよいのかを考えて対策を実行するようにしましょう。
筆者紹介
合同会社フォーサイトデザイン 中小企業診断士 長谷川綱雄
認定経営革新等支援機関
公的支援機関で、事業承継支援、事業再生・経営改善支援、新規事業開発、事業計画策定支援などの中小企業支援を中心に活動
原価管理、IT活用、補助金申請、中期事業計画、人材育成なども得意分野
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