令和の米騒動—なぜコメの価格が高騰したのか?

中小企業支援

 こんにちは、中小企業診断士の長谷川です。

Noteブログに、令和の米騒動についての記事を3回に分けて書きました。

当ホームページでは、この記事をつなげて再掲しました。

令和の米騒動---なぜコメの価格が高騰したのか?|長谷川綱雄/中小企業診断士
  なぜコメの価格が高騰したのか?  昨年、スーパーの棚からコメが消え、価格は今も2倍に高騰しています。テレビなどメディアの報道では、なぜコメの価格が高騰しているのか、納得できる明快な解説がされていないので、少し調べてみました。  この問題はコメに関する農業政策や生産、流通など複雑な背景や多くの関係者があり、それ...


令和の米騒動---コメ価格は下がらない|長谷川綱雄/中小企業診断士
「米価格は決して高くない」  JA全中・山野徹会長:は「今備蓄米が出回りつつあり、店頭の小売価格の上がり幅は縮小傾向から「下落した」という発表もある。その効果が現れ始めている。決して高いとは思っておりません。」と発言しましたが、これがJA農協や農水省の本音だと思われます。  また、長年にわたり販売価格が生産コストを賄...
令和の米騒動---農業政策|長谷川綱雄/中小企業診断士
こんにちは、中小企業診断士の長谷川です。 コメ不足、価格高騰などの話題がにぎわっていますが、価格高騰の原因や、これからコメの価格が下がるのかについて考えてきました。 今回の記事では、今後の農業政策はどうあるべきなのかについて、考えてみました。 減反政策  コメ不足が起こる構造的な問題  70年代以降コメ余り...



昨年、スーパーの棚からコメが消え、価格は今も2倍に高騰しています。テレビなどメディアの報道では、なぜコメの価格が高騰しているのか、納得できる明快な解説がされていないので、少し調べてみました。

1.なぜコメの価格が高騰したのか?

 この問題はコメに関する農業政策や生産、流通など複雑な背景や多くの関係者があり、それぞれの立場での言い分があるため、本当の原因は何かが分かりにくくなっています。

結論から言うと、コメ価格高騰の理由は、需要と供給の関係で、需要に対して供給が不足しているので、価格が高騰しているという単純な理由です。

 昨年夏から農水省は「コメは不足していない」と言い張ったり、「卸売業者が在庫を放出しないからだ」と主張したり、メディアでも供給不足という単純な原因を説明する人が少なかったため、さらに混乱していたのではないかと思います。
 しかし最近の報道では、ようやくコメ高騰の原因が供給不足にあることを指摘する説明が多くなっているのではないかと思います。

 この問題について、明確なコメントと予測を述べているのは、President Onlineに掲載されているキャノングローバル戦略研究所の山下一仁主幹の記事です。この記事を元に、コメ価格高騰の原因と、問題点などについて整理してみます。

残念ながら来年秋まで「5㎏4200円」が続きます…農水省とJA農協がいる限り「コメの値段は下がらない」そのワケ
キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)のオフィシ&...

1)コメの需給状況の現状について

農水省のホームページには、「コメの需給状況の現状について」という資料が掲載されています。

この資料にある最近のコメの需給動向のデータを下記に示します。

 このデータによると、年々コメの需要量は減少していますが、これらの需要量の減少に対して、供給量をコントロールすることにより、コメの価格を維持している様子がよくわかります。


 しかし、これまでコメの需要量が年々減少していたのに対して、令和6年には702万トンと前年から14万トン需要量が増えています。

 また、米の価格の推移のデータをみると、需要量に対して供給量が多いと相対取引価格が低下しています。 しかし、令和6年には需要量が増えたにもかかわらず、生産量が大きく減り、需要量とのギャップが44万トンとなったため、米不足と大幅な価格高騰につながったとみることができます。

 このようにコメの価格は需要と供給(生産量)の関係で市場価格が決まる非常にわかりやすい構造になっています。


 日用品や必需品などは需要に対して供給が少ないと、価格が上がり販売側も販売を控えたり、消費者は買いだめに走ったりすることで、品不足・価格高騰に拍車がかかることになりやすいということは、過去の例からも明らかです。

2)需要量が増え、供給量が減った原因

それでは、今回コメの需要量が増え、供給量が減った原因は何でしょうか。
農水省の「コメの需給状況の現状について」の資料では

とあるように、需要増については、14万トンですが、
①    食料品全体の価格上昇でコメの需要が増えた 
②    インバウンドでコメの消費が増えた
と二つの理由を挙げています。


 確かに、小麦粉の消費者物価指数が121.2に対してコメは103.9のため、コメの需要が増えたことは考えられます。

また、インバウンドの影響では5.1万トンの需要増と試算されています。

3)生産量減の原因

③    高温・渇水の影響
を挙げていますが、毎年10万トンの生産調整を続けてきたことから、生産量の減少9万トンは、今までの減反政策による生産調整が原因だと思われますが、公には減反政策による生産調整をしていないと言っている農水省としては、生産量減少の原因とは言えないのではないかと推測します。

 結果的には、食料品の価格上昇によるコメの需要量増加とインバウンドによるコメの消費量増を予測できずに、例年通り減反による生産調整を行ってきたことにより、大幅な需給ギャップが生じたというのが、価格高騰の原因だと思われます。

 農水省がコメは不足していないと主張していたのは、民間在庫量が不足分をカバーできるはずと考えていたのかも知れません。

2.令和の米騒動—コメ価格は下がらない

1)「米価格は決して高くない」

 JA全中・山野徹会長:は「今備蓄米が出回りつつあり、店頭の小売価格の上がり幅は縮小傾向から「下落した」という発表もある。その効果が現れ始めている。決して高いとは思っておりません。」と発言しましたが、これがJA農協や農水省の本音だと思われます。


 また、長年にわたり販売価格が生産コストを賄えないほど低い水準だったとの発言もあります。

 生産者側としては、生産コストを考えるとコメの価格は高くないと言いたかったのでしょうが、日本人の主食であるコメの価格が2倍になっても、高くないというのは消費者にとっては受け入れがたい発言です。

 しかし、この発言はコメの価格を高く維持したいということの表われで、言わば生産者側の経営目標となっているものと思われます。

2)備蓄米の放出でコメ価格は

 このため、最初の備蓄米の入札先のほとんどが米を高く売りたいJA農協となっている限りはコメの価格は下がらないということになります。備蓄米を競争入札としたり、買戻し条件を入れたりしていた農水省も、コメの価格を高く維持したいというのが本音なので、コメの価格が下がる訳はないと言えます。

 私は別にJA農協や農水省を悪者としたい訳ではありません。
米の価格を下げたくない生産者側の意向は理解できますが、コメは言わば独占販売に近い形となっているので、消費者である国民のことを考えずに、生産者側の意向だけで政策を進めればコメの価格は下がらないため、政治の力が必要になることを強調したいのです。

 備蓄米はトータル約100万トンを目安に備蓄していますが、5月の時点では、7月まで毎月10万トンずつ備蓄米の放出を決めました。しかし3月に放出したコメは4月中頃になっても2%しか消費者に届いていないとのことです。

 小泉進次郎農林水産大臣に交代してから始めた小売業者に直接備蓄米を低価格で放出するという作戦は、需給ギャップを解消するのに効果的と考えられます。

 しかし、それまでコメの価格高騰を見逃してきたために、コメの相対価格は60キログラム当たり2万6000円まで高騰しており、市場に出回っているコメの価格がすぐに下がることは考えにくいと思われます。


 また、競争入札で高い備蓄米を放出したことで、価格の高いコメの供給量を増やしただけで、一般のコメの価格が下がらない構造になっています。

3)来年秋までコメ価格は下がらない

 キャノングローバル戦略研究所の山下研究主幹は、来年秋までコメ価格は下がらないと言っています。

 米価が高騰したのを見て農家は25年産米の生産を増やすとのことです。
農水省は、今年産は22万トン程度生産が増加すると予想しているとのことですが、放出した備蓄米を61万トンも農水省が買い戻せば、供給量は逆に31万トン減少して米価は今よりさらに高くなることになります。

 農家は、まずJA農協から概算金という仮渡金を受取り、JA農協が卸売業者に販売した米価(相対価格)で代金が調整されることになっています。

 JA農協は24年産米の概算金を前年から3割増加しましたが、JA以外の集荷業者がこの概算金を上回る価格を農家に提示したために、JA農協の集荷率が低下しました。

 このため、JA農協は集荷率を回復するため、25年産米については24年産からさらに3割から4割ほどの大幅アップを提示しているとのことです。
 これにより概算金が2万3000円位になっており、JA農協は相対価格を2万6000円程度と現在の相対価格を維持するように動くため
、5キログラム4200円の価格が26年秋まで継続することになると予測しています。

 山下研究主幹は
「これから1年半、消費者は高いコメを買わされることになる。備蓄米の放出は米価を下げる効果を持たない。スポット的に、運のよい消費者が安く備蓄米を購入できるだけだ。全体のコメの値段の水準は相対価格で決められる。」と述べています。

3.令和の米騒動—農業政策

コメ不足、価格高騰などの話題がにぎわっていますが、価格高騰の原因や、これからコメの価格が下がるのかについて考えてきました。
この章では、今後の農業政策はどうあるべきなのかについて考えてみました。

1)減反政策  コメ不足が起こる構造的な問題

 70年代以降コメ余りが問題となり、コメの作付面積を制限する減反政策が導入されました。都道府県ごとに生産目標量を設定して、農家に休耕や転作を促しました。

 2018年に廃止されましたが、現在も農林水産省は生産量目安を示し、転作を促す補助金を出しているため、事実上の減反は継続しています。
 
 この減反政策の目的は、コメの生産量を減らして米価を市場で決まる水準より高く維持することです。

2)コメ農家は赤字

 農業界では、米価が下がると、コメの生産コストがまかなえないため、コメ生産が維持できなくなると言っています。

 1ヘクタール未満の農家のコメ生産は赤字ですが、赤字なのになぜコメ生産を止めないのか不思議です。


 キヤノングローバル戦略研究所の山下研究主幹によると、コメの価格が安いとコメを作ったことによる赤字幅が大きくなるが、コメの価格が引き上げられ、コメ作りの赤字が縮小することにより、自家消費分も含めて考えると、コメを作った方がコメを購入するより得になるのだそうです。

 しかもコメ農業の赤字を損金算入して主業の給与所得税の還付を受けることにより利益が得られることもあります。


 コメの価格が高く維持できていれば、小規模で生産性が低い兼業農家でもコメ作りを続けることができます。

3)減反政策をやめて、コメの価格を下げることができない構造

 しかし、減反政策を廃止してコメの価格が下がると、一気に兼業農家が離農してしまうことが考えられます。

 農協にはこのような兼業農家が、サラリーマン収入などの兼業収入や農地を宅地に転用した利益を農協に預けることにより巨額の預金(109兆円)を維持していますが、小規模の兼業農家が離農して、預金も引き上げられてしまうことは、JA農協としては避けなければなりません。

 このような背景もあるため、JA農協も農業界もコメの価格が高ければ高いほど、それが成果となるものと考えられます。

 また、JAには農水省からの天下りもいるため、農水省もJA農協の意向には逆らえません。

 一方、農業政策を推進する政治家は、本来は農業者だけでなく国民全体のことを考えるべきですが、農家票が欲しい自民党は、農業者の利益を優先に考えるため、コメの価格を下げようとする政策を取ることはなかったのではないかと考えられます。

4)コメ不足、価格急騰の解決策

・今、コメの価格を下げるには

 前回の記事で、コメの価格は下がらないとの見解を紹介しましたが、これはコメの生産量(供給量)をすぐには増やせないという事情があるからです。

 今年度のコメの価格はJA農協が買取る予定の概算金や、JA以外の業者が買取る価格が高騰していることから、すぐには大幅な価格低下は期待できません。

 緊急で供給量を増やす方法として、随意契約による備蓄米放出は90万トン分の効果はあるものと考えられます。

 また、単純に供給量を増やすのであれば、輸入米の導入が考えられます。日本人の主食であるコメの食糧安全保障にも関わる問題ですが、一時的な措置として捉えれば一番有効な方法であると思われます。

・今後供給不足が起きない生産量を確保する

 従来からのコメの価格を維持するのであれば、需要量より多めの生産量を確保することが必要です。
 この場合には、コメ余りとなり価格低下が起こることが予想されますので、農家への農業所得補償や、
コメの輸出などの対応策も一緒に考える必要があるものと考えられます。

・食糧安全保障を考える

 今回の米騒動は、食の安全保障を考える上で非常に良い機会になるものと考えられます。

 有事には、食糧確保の問題は非常に重要です。コメは日本で自給自足のできる食料として、とにかくコメさえあれば日本人は生きていけるのですから、コメの自給自足の方針を曲げることはできません。

 世界の政治情勢や安全保障の問題が複雑になり、世界的な食糧危機の可能性が高くなるにつれて、海外からの食糧の輸入ができなくなる恐れもあり、これらの問題は第一優先で考える必要があるものと考えられます。

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