特例承継計画の提出期限

事業承継

こんにちは、合同会社フォーサイトデザインの中小企業診断士 長谷川です。

今回の記事は事業承継に関する内容です。
中小企業の中でも株価の高い優良企業の事業承継では、株式を後継者に譲渡する際の税金負担が大きな障害になっています。

特例承継計画の提出期限 令和6年3月31日

優良企業の後継者がこれから事業承継をするなら、今のうちに特例承継計画を提出しましょう。

優遇税制の時限付き制度である特例事業承継税制の特例措置を受けるためには、令和6年(2024年)3月31日までに特例承継計画を提出する必要があります。

事業承継時の税金負担

会社を後継者に事業承継する際には、代表者の引継ぎと共に株式の承継が課題となります。会社の株価が高いと、株の贈与・相続などで贈与税、相続税など多額の税金が発生します。

例えば株価が2億円、相続人(後継者)1人、他に不動産5000万円の相続税は相続財産2億5000万円として、約6930万円の相続税が発生します。
2億円の株式を、贈与する場合には、そのままだと55%の税率になり、実に約1億円の贈与税となります。

このため、後継者に株式の譲渡が進まず、事業承継の支障となっています。

これらの税金負担を減らすために、株価の引下げ対策や暦年贈与、相続時精算課税などの活用や持株会社を使った株式譲渡の方法などが挙げられていますが、株価が高い場合にはいずれにしても税金の負担から逃れることができません。

事業承継税制とは

こういった事業承継における重い税負担を軽減して、円滑な事業承継を後押しするために、平成21年度に、自社株に係る贈与税・相続税の納付を猶予する制度(事業承継税制)が創設されました。

これは、中小企業が後継者に事業を承継するのであれば、相続税や贈与税を大幅に猶予・免除しますよ、という制度です。

従来の事業承継税制の活用は進まなかった

しかし、平成21年度に創設されたこの事業承継税制は、企業経営者にとって大きなリスクもあるため、ほとんど活用されてきませんでした。

以前の事業承継税制は、納税猶予打切りリスク(猶予された税額を全額納付)があり、また猶予される納税猶予額が100%でないこともあり、あまり活用されていませんでした。

特例事業承継税制(10年間の特例措置)

平成30年に10年間の措置として大幅な納税猶予緩和による特例措置が創設され、これらのデメリットの多くが解消されました。

しかし、この措置は10年間の時限措置であり、この特例を活用するためには、前もって特例承継計画を都道府県知事に提出することが必要となっており、その期限が2024年3月1日に迫っているのです。

では、特例事業承継税制がどのくらい緩和されているのでしょうか。

納税猶予割合(納税負担)の緩和

納税猶予される対象の株式ですが、従来の事業承継税制では、株式総数の2/3で猶予割合が80%でしたので、株式全体の53%しか猶予されませんでした。

特例措置では100%の株式が納税猶予の対象となり、大幅な緩和となっています。

雇用維持要件の撤廃

次に従来の事業承継税制では、5年間で8割以上の雇用維持という要件があり、多くの中小企業では、経営悪化により雇用を維持できなくなった時に納税猶予額を全額納付するリスクを考え、この制度の活用に踏み切る経営者は限られていましたが、この要件が実質的に撤廃されました。

会社売却時の納税リスク軽減

また、後継者が今後何らかの理由で廃業したり、会社を売却する際には承継時の株価を基にした贈与税額、相続税額を支払うことになっていたのが、特例措置では実際の売却額から算出される税額との差異分は免除されることになりました。

多様な事業承継への対応

加えて特例措置では、3人までの後継者への承継や先代経営者以外の複数の株主からの株式承継も対象になっています。

特例事業承継税制を検討しましょう

今まで課題となっていた制度の使いにくさを、ほとんど解消し100%の納税猶予が可能となる特例措置です。

対象要件を満足できる場合には、優良企業の事業承継に活用してはいかがでしょうか。

特例事業承継税制の適用要件

特例事業承継税制を活用するためには、その適用要件について確認する必要があります。

この適用要件をクリアできないと、この特例措置を受けることができませんので、事前によく確認しないといけません。
適用要件は、いろいろあり複雑ですので、第3者の専門家などと一緒に確認するのが望ましいでしょう。

複雑な適用要件ですが、特によく確認しておくべきものを紹介します。

①先代経営者の要件

 これはほとんどの場合、要件を満たしていると思います。

②後継者の要件

・相続の場合には直前に役員であったことが要件になります。
・また、贈与の場合には3年以上役員である必要があります。
相続が発生した時に役員でないと、猶予を受けられません。また贈与の前に後継者 
は3年間の役員経験が必要になりますので、事前に役員になっておく必要があります。

③対象会社要件

 従業員が1名以上で、資産保有型会社、資産運用会社ではないことが必要です。資産保有型会社・資産運用会社であっても特例事業承継税制の適用を受けられる適用除外例がありますので、専門家の確認が必要です。

④雇用確保要件

 雇用の8割以上を5年間維持することが条件になっていますが、経営悪化などにより雇用確保要件を満たせなくなった場合には認定経営革新等支援機関からの指導・助言を受けて、書類を提出することでよくなりました。実質的に雇用確保条件は撤廃されたと言えます。

⑤事業継続要件

 認定取り消しとなるケースがありますので、専門家と一緒に確認が必要です。
 よく起こり得る認定取り消しケースとして

 ・会社が倒産、解散した時
 ・報告・届出を行わなかった(年1回、都道府県知事と税務署長へ報告)
 ・代表者でなくなった場合
 ・会社が倒産、解散した時
 ・その他いろいろ
認定取り消しとなるケースが起こりうることから、注意が必要です。
これも、今まで税理士などの専門家が積極的に進めてこなかった原因として考えられます。

猶予だけでなく免除となるためには

納税猶予だけでは、いつかは納税しなければならないのではとの心配があります。

どうすれば猶予が免除になるのでしょうか。

実は、後継者の次の世代の後継者が猶予継続贈与をした場合には、納税猶予が納税免除になります。

後継者に子供がいなかったり、次の世代の後継者がいない場合には、猶予されていた税金を払う必要があります。このため、子供がいないことを理由に特例措置を断念する経営者もいますが、これから親族や従業員への承継も考えられることから、特例措置を活用しておいて納税猶予してもらってもいいのではないかと思います。

まとめ

1.株価の高い中小企業の事業承継では、株式譲渡の税金負担が重い

2.中小企業の円滑な事業承継のために、株式譲渡の贈与税・相続税の猶予が受けられる事業承継税制があるが、いろいろな制約があり、今までわずかな企業経営者にしか活用されてこなかった。

3.10年間の特例措置として特例事業承継税制が創設され、株式承継時の税負担と適用要件が大幅に緩和された。

4.特例措置を受けるためには、2024年3月31日までに特例承継計画を提出する必要がある

5.特例事業承継をの適用要件は複雑なので、専門家とよく確認する必要がある。

6.納税猶予だけでなく納税免除になる要件についても確認しておく

結論

株価の高い優良企業で、後継者がいて事業承継の予定があれば、この特例措置を是非活用しましょう。

筆者紹介
合同会社フォーサイトデザイン  中小企業診断士 長谷川綱雄
認定経営革新等支援機関
公的支援機関で、事業承継支援、事業再生・経営改善支援、新規事業開発、事業計画策定支援などの中小企業支援を中心に活動
 原価管理、IT活用、補助金申請、中期事業計画、人材育成なども得意分野

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