売上を追うな! (建設業の事例)

原価管理

粗利を認識しないで、売上だけを追っていくと大赤字になることがあるという例と、その解決策について事例を挙げています。今回は、建設業の事例です。
建設業では原価見積、予算実行管理などの原価管理が会社の収益を左右する重要な要素ですが、中小企業では厳密な原価計算や原価管理を行うことが難しいため、まずは案件毎の粗利を管理していくことをお勧めしています。

リフォーム会社の大幅赤字

 今回の事例は、リフォーム設計・施工業です。
この会社は先代の社長が亡くなり、後継者が事業を引き継いで3年になります。以前は大手からの安定した受注で経営は安定していましたが、取引先との関係悪化により、自社で受注案件を探さなければならなくなり、経営が悪化していました。

コロナの影響により、店舗改装などの仕事が減ったこともあり、後継者はとにかく売上を取らないと事業継続ができないと考え、積極的に営業を行なってきました。

赤字の原因

しかし、決算の結果では売上は2000万円増えているにも関わらず、外注費が2000万円以上増加しているため、粗利率が40%から20%に大きく減少し大きな赤字となっていました。売上を上げるために仕事が増え、みんな忙しくしているのに、赤字が増えていしまっていたことになります。

 
その原因は、紹介で仕事を依頼してきた取引先の粗利率が極端に低いことでした。この取引先は施主が希望している価格を提示してくるため、紹介してもらった仕事であることもあり、売上さえ上げられればと、そのままの価格で引き受けていました。

粗利改善の取組

採算の取れない仕事は断る勇気が必要です。適切な見積もりができていれば、その価格を提示して受注できなくてもいいとの覚悟が必要です。

採算の取れない取引先から、利益の取れる取引先の開拓を行うために、どんな受注がどれだけの粗利率なのかを調べてみることにしました。
結果は、受注案件数は、リピート顧客からの受注が30%、不動産屋などからの紹介による受注が35%、紹介サイトからの受注が25%、その他が10%で、その粗利率はリピート顧客が20%、紹介が30%、サイトからが35%、その他が10%であることがわかりました。

受注形態案件数粗利率受注率備考
リピート30%20%85%直接依頼のため受注率が高い
紹介35%30%70%紹介者の顔を立てるためサービスしてしまう
サイト25%35%45%競合が多いため、受注率が低い
その他10%10%80%工事費用指定で依頼してくる

その他が10%というのは、工事費を事前に指定して依頼してくる業者で、仕事が欲しいときに依頼してきたため採算が取れない工事でした。
またリピート客や、紹介による受注はついつい追加工事をサービスしてしまうことなどで粗利が低くなっていました。

工事費用を指定してくる採算の取れない受注は、適正な見積りを出して受けないこととしました。

大きな赤字となりそうな案件は、適切な見積額を提示して、それ以上の値引きはしないこととしました。これにより、売上は減少しましたが赤字幅は減ることになりました。

また粗利率だけでなく粗利額も重要ですので、年間で必要な粗利額を2000万円として、採算の取れる見積りを出すようにしました。

粗利改善の効果

売上は以前より減少しましたが、粗利率が33%に改善したため、2000万円の粗利額となり、200万円の営業利益を達成することができました。

それでも社長は売上が足りないと考えており、赤字受注の可能性はありそうです。
売上だけを追うのではなく、粗利率・粗利額をよく認識した見積の提示や値引き交渉などを行う必要があります。

まとめ

課題:
1.必要な粗利率・粗利額が分からない
2.採算性を考慮した見積提示
3.赤字受注が多い
4.仕事が埋まれば安心できるが、仕事が埋まっていないと不安になる
5.採算の取れない取引先から利益の取れる取引先の開拓への移行が必要

分析結果:

・工事費用を指定してくる業者からの取引で採算が取れていないことが判明した。
・リピート客や不動産屋からの紹介では、サービス工事などで結果的に粗利率が低くなる案件があることが分かった。
・案件ごとの粗利率を比較することで、どの取引先を大事にすればよいかが分かった。

効果:

・赤字受注を止めたため、売上は減ったが、利益は改善した。
・利益の出ている取引先からの仕事を取りに行く営業方針になった。

筆者紹介
合同会社フォーサイトデザイン  中小企業診断士 長谷川綱雄
認定経営革新等支援機関
公的支援機関で、事業承継支援、事業再生・経営改善支援、新規事業開発、事業計画策定支援などの中小企業支援を中心に活動
 原価管理、IT活用、補助金申請、中期事業計画、人材育成なども得意分野

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