――― 事業承継20年後には納税猶予から免除へ ――――
2026年3月末に特例承継計画の提出期限が終了します。
中小企業経営者の世代交代が遅れて、このままでは、黒字の優良会社であっても社長が亡くなると廃業せざるを得なくなるとの危機から、従来の事業承継税制の条件や適用範囲を大幅に緩和して円滑な株式の承継と代表者交代を進めることを目的にしたのが、特例事業承継税制です。
東京都をはじめ、全国の自治体も「特例承継計画の提出が締切間近です!」と積極的にアナウンスを行っています。しかし、制度自体は十分に活用されていないのが現実です。
今回は、この制度がなぜ活用されないのかを整理し、制度改善の提言までをお伝えします。
◆ 特例事業承継税制とは?ざっくり3分でおさらい
特例事業承継税制とは、自社株式を後継者に贈与・相続する際の税負担を大幅に軽減できる制度です。2009年から始まった「事業承継税制」に、2018年に10年間限定の特例措置として追加されました。
主なポイント:
- 贈与税・相続税が最大100%猶予
- 対象となる株式の制限緩和(最大全株式)
- 雇用要件の事実上の撤廃(要自治体認定)
- 2027年12月末までに「特例承継計画」を提出することが条件
表面的には非常に魅力的な制度に見えますが、実際には利用件数が伸び悩んでいます。
特例事業承継税制については、以前に記事を書きましたので参照してください。
◆ なぜ使われない?特例事業承継税制が敬遠される理由
今までこの特例事業承継税制を使いたいといった相談がたくさんありましたが、結果的にはこの制度を使わない事例が多く、どうしてこの制度を使わなかったのか、使えなかったのかについて整理してみたいと思います。
制度の活用を断念するケースとその理由は、大きく分けて次の二つがあります。
【理由1】制度を使わなくても税負担を下げられるケース
これは意外に多いパターンです。例えば、
・そもそも自社株の評価額がそこまで高くない
・退職金や生前贈与など、他の手段で株式移転を進められる
・相続時精算課税制度や暦年贈与を組み合わせることで、制度を使わずとも承継可能
というように、税負担を大幅に軽減できる「別の道」があるため、あえて煩雑で縛りの多い特例事業承継税制を使う必要がないのです。
とはいえ問題なのは、こうした選択肢や試算を提示してくれる専門家が少ないことです。
【理由2】「免除」ではなく「猶予」だからリスクがある
この制度が結果的に活用できない最大の問題がここです。
「株式の贈与税・相続税がゼロになる」という説明がされることもありますが、実際には“猶予”されるだけです。
つまり、将来条件を満たさなくなれば一括で納税が発生する可能性があるのです。
具体的には以下のようなリスクがあります:
・後継者が会社を離れる・廃業する
・後継者にさらに後継者(子など)がいない
・将来、廃業や事業売却が避けられない場合
具体的な事例としては
・後継者に子供がいないため、納税猶予を継続できず、後々納税猶予分と利子を加えて支払うことになるため、活用を断念する例
・後継者に子供がいても、子供が事業を承継するのか分からないため、子供の将来を拘束したり、猶予された税金のツケを次の世代に回したくないとして活用を断念する例
経営者が「自分の代で完結するのはいいけど、子供や孫の世代に税金のツケを残したくない」として、この制度の利用を断念するケースが非常に多いのです。
◆ 制度の根本的な課題
制度の目的は、「円滑な事業承継の促進」です。
にもかかわらず、「税金の猶予」という不安定な制度設計になっているため、かえって経営判断を難しくし、「だったら使わない」という選択をさせてしまっているのです。
このままでは、本来制度の恩恵を受けられるはずの優良中小企業が、承継できずに廃業するリスクが高まることが強く懸念されます。
◆ 提言:制度を“安心して使える形”にアップデートすべき(特例事業承継税制の見直し)
ここで、実務の現場や経営者の声を踏まえて、制度改善のための具体的な提言を3点提示します。
✅ 提言1:特例措置を恒久化(特例事業承継税制の恒久化、一般措置とする)
- 「特例」の10年限定という不安定な位置づけをやめ、制度そのものを使いやすく整備した恒久措置に移行
- より長期的・計画的な事業承継がしやすくなる
✅ 提言2:20年後の事業継続で納税免除とする
- 納税猶予ではなく、「20年間の事業継続」が確認された段階で税金を免除
- 企業にとっては“安心材料”となり、承継のインセンティブになる
- 「継続こそ価値」という制度の趣旨とも整合
✅ 提言3:制度の悪用防止措置を明文化する
制度を“相続税対策”に利用しようとする動きも懸念されるため、以下のような歯止め規定が必要です:
- 承継前の事業継続歴が10年以上ある企業に限定
- 純粋な事業承継目的での利用に限定する明確な基準を設ける
◆ おわりに:制度を“使える制度”に進化させるために
事業承継税制は、国の産業や雇用を支える中小企業を次の世代に繋いでいくために不可欠な制度です。
しかし、制度が「あること」ではなく、「安心して使えること」が求められています。
2027年の特例措置終了を目前に、多くの経営者が制度活用に悩んでいます。
だからこそ、今こそ制度の本質的な見直しと整備が必要です。



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